触覚的な夢の世界へようこそ。
Alexandra Ferrarini (アレクサンドラ・フェラリーニ) が創り出す身につけるオブジェ。
日本文化にインスパイアされた彼女の世界観が織り成すブランド、Pièces à Porter (ピエス・ア・ポルテ)。
大量消費に対する代替のビジョンと製造における透明性へを掲げ、コレクションやチェーン展開の無いライン、職人の技術と芸術的なアプローチを組み合わせた実験的で詩的な衣服たちと、その物語。
Alexandra Ferrarini
■プロフィール
2001年より、ヴァネッサブルーノのスタジオでキャリアを積み始め、以後アップサイクリングを掲げたラインをヨーロッパで展開販売、エルメス、シャネル、バレンシアガなどの高級ブランド向けのテキスタイルクリエーションに取り組む。2017年よりブランドPièces à Porter (ピエス・ア・ポルテ)を立ち上げる。
■あなたのアートをあなた自身でどのように説明しますか?
わたしは、ファッション産業によって生み出されたコレクションというシステムは淀んでいると感じていてて、その時間に追われるシステムのあり方を回避しようとするアプローチとともに、衣類とアクセサリーを製作しているの。 時間の圧力や流行りの家来になったりすることなく、わたしの周りの世界からインスピレーションを得て、アップサイクリングの観点から素材を選び手作りで作品を構成しています。 意図としては、快適さと品質を見失うことなく、かつ実験的なアプローチを維持すること。 作品はアトリエで、世界でたったひとつ、もしくは非常に少ない量で生産されているのよ。わたしは作品たちを、混合された異なる時代で構成された、手で触ることのできる詩だと見なしているの。
■作品を製作する上で、あるいは仕事をする上で、最も重要なことはなんですか?
わたしの仕事の基本は時間をかけるという概念にある。 時間をかけて自分の創造的な方向性を掘り下げること、特定の日にコレクションを完了することを心配せずに自分の意図したことを実行させるということを選んでいるの。 思いもよらない時に起こる出来事は、自分が伝えたいものに向かって進ませてくれるし、より敏感でより尊重される具体性のあるビジョンを表現して、そして共有することを可能にさせてくれると思う。 自分たちが身につけているものに対してより意識した視点を持てること、それから、疎外感を感じさせられる下品な裕福さではなく、貴重なものたちに価値をもたらしたいと思っているの。
■インスピレーションの源は何ですか?
まず日本の文化への情熱から始まるわね。それはすごくわたしの基礎になるものに浸透しているのよ。あとは、音楽、映画、そしてわたしが明らかにしようと試みている、女性としてのある種の世界観。わたしのインスピレーションはとても多様だけれど、それらは今日もわたしを満たし続けているすべてのものたちなの。
■なぜ今のあなたの表現方法を選んだのですか?
まず、祖母からこの仕事を譲り受けたと言えるのだけど、それ以上に、衣服のデザインと製作は、多くの分野を開く表現の手段だと思っている。何よりも素材、テキスタイルは私にとって強力で創造的な作動装置だと言えるわね。それに加えて、色、質感、光、手触り、さらには音でさえもそう。 衣服は自身の体を安心させたり、個性を表現したり、また自分自身を消し去ったり、主張したりする力を持っているのよ。
日本について
■日本が好きと聞いていますが、どんなところが好きですか?
幼い頃に日本へのラブストーリーが始まったのだけど、それは今も成長し続けているわ。文化、伝承芸能、言語、文学、芸術、映画、神話が私の飽きない養分になっているの。
■日本についての何か特別な経験や思い出などはありますか?
ファッションデザインの世界に進出する前に、日本語を勉強していたの。それのつながりで得た、素敵な他にない日本滞在の思い出があるの。このパラドックスの国は文字通り私を魅了したのよ! わたしの一番の思い出といったら間違いなく、若い頃、神戸に住む日本人の女友達の伝統的な日本家屋で日本の日常生活に身を浸したこと!漫画でちらっと見たことがあった、女子高生の日常生活のリズムを共有したことよ。 感動で夢なんじゃないかって思っていたわ!
■日本の芸術家もしくは芸術作品で興味があるものはありますか?
たくさんあるから、漏れのないようにリストを挙げるのに苦労するわね!
谷崎潤一郎や川端康成の文学の型にはまらない美しさの表現はもちろんのこと、魔術的な現実感覚を精緻でかつ感動的に表現するよしもとばななの文学表現。
日本の映画にも私は魅了されてます。女性の身分や神道に対する幽霊的で官能的な世界観を感じさせる衝撃的なビジョンを持つ溝口健二の映画。
芸術でいえば、能や歌舞伎と同様に、浮世絵。もう少し近代的なものであれば、一時停止したような時間や、夢と現実が入り混じった状態と神秘が組み合わさったような大倉舜二の作品に感動を覚えるの。
■日本の芸術家やその作品をどうみていますか?
決定的にこれといったビジョンを持つのは私には難しく思うけれど、日本の文化とその芸術には認定された特異点、感動的で型にはまらない美しさ、それからわたしにとって重要だと思える卓越した技量への配慮があると思う。 また、ハイブリッドで流動的な世界を創造しながら、ほぼ正反対の領域を横断する能力は、磁気を帯びた神秘を解き放っていると感じさせられる。
■日本のアートとフランスのアートには違いがありと思いますか?
違いがあると思う。それぞれの国の文化によってもたらされたアプローチは、異なる方法でそれぞれ表現されていると思うの。 フランス人が日本の芸術に、または日本人がフランスの芸術について感じている神秘を生み出しているものこそがこの違いであり、2つの国の間でこの共有された賞賛を引き起こしているのかもしれない。 谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」で、そのことがよく表現されていると思うわ。
■今後の活動の予定があれば教えてください。
9月に南仏、ニースの街にあるLe22ギャラリーで展示会を準備しています。その展示会に向けての準備を、ギャラリーのオーナーであるCarine Micheliと共同で、夏の間、徐々に公開しています。 (Le 22editions、22 rue de Dijon、06000 Nice)
Texte : Ayami Ijima