アイリーングレイの海辺の家、E-1027見学
6月のある日。本格的な夏が始まる前の、一番贅沢な南の季節。南仏、モナコの隣、すぐ間近にイタリア、という場所に位置する街、ロクブリュヌ・キャップ・マルタンの駅に降り立った。建物から一歩外に踏み出した瞬間に、突然あまりにも大量の光に晒されて、思わず目を細める。目を開けたわたしの前にはコートダジュールブルーが広がっていた。
紺碧の空にコラージュされたような白い外壁。険しく切り立った岸壁に広がる海とその白の対比。このアイリーン・グレイの作品を初めて前にしたル・コルビュジエは、さぞかし嫉妬で胸をかきむしられる思いではなかったかと、思わず想像する。数年後にル・コルビュジエがグレイの許可無しに描いた玄関先のの壁画が何よりも初めにこの家にわたしたち訪問者を迎え入れることは、とても興味深いことである。
ヴィラは建物から家具まで、グレイによって全て設計及び製作されている。内部空間のデザインは、オープンとクローズ、自由で用途の広い社会的空間、そして親密で個人的な空間という2つの相反する要件を調和させることを目指している。そして多用途、多機能にデザインされた家具は内部インテリアに内蔵されているか、もしくは独立しているが軽く、移動可能で快適さを求めたデザインである。ヴィラは、時に独立した個人として、時に社交的な人間として、知的で且つ時に感情的な生活を同時に構成する多数の矛盾する要素を統合している。
「家は住むための機械」というル・コルビュジエの考えとは違い、住まい手の個性に合った住宅という精神を持ってデザインされた、才能溢れる女性建築家のこの作品は、斬新で機知に富み、美しく、そして何よりエレガントだ。
キャップ・モデンヌの見学では、丁寧且つ思わず引き込まれるガイドの説明とともにこの作品の細部に宿る美しさをふんだんに味わうことができる。ちなみに、水着を持ってこの訪問に参加することをおすすめする。2時間の訪問が終わると、そのまま駅へは向かわずに裏から海岸へ。そこはル・コルビュジエがこよなく愛し、最後は溺れて息をひきとった海岸。その海の真ん中から眺めるE-1027の姿が、また魅力的なのだ。それを含めてこの訪問を完全に堪能したと言えるだろう。
Cap moderneのガイド付き見学ツアーには、アイリーン・グレイの「ヴィラ E-1027」(la villa E-1027)、世界遺産に登録されているコルビュジエの小屋(le cabanon)、それに隣接する、レストラン「レトワール・ドゥ・メール」(l’étoile de mer)、レ・ユニテ・ド・キャンピング(les unités de camping)が含まれている。要事前予約。
https://capmoderne.com/
Text : Ayami Ijima